契約書ドラフトの作法・テクニック

契約書
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本稿では、契約書ドラフトの作法を、テクニック的なことも含めて紹介します。
一人法務で頑張っているスタートアップやベンチャーの方のお役に立てば幸いです。

契約書の目的

前提として、契約書の目的を簡単に確認しますと、大きく以下の2つの目的があります。

・行為規範性
契約を履行するに際して当事者が参照することで、合意内容どおりに履行できるようにする。

・裁判規範性
裁判になった場合に証拠として提出し、紛争解決のルールとする。

契約書のドラフトに際しては、両者の観点から、文言が一義的かなどを検討することになります。

契約当事者の確認

契約とは、当事者間の合意であり、それにより当事者間に債権と債務が発生します。したがって、誰を当事者にするかは非常に重要です。
ありがちなのは、契約外の第三者に義務を負わせようとする誤りです。契約書にサインすることで初めて、自らに義務が発生することが承認され、法的拘束力が生まれるのであって、契約外の第三者に勝手に義務を負わせることはできません。

このような場合のテクニックとしては、契約当事者に、契約外の第三者に一定の行為をさせることを義務付ける、という手法があります。
例えば、投資契約では、「経営株主は、少数株主をして、投資家に対し、●●させなければならない。」というような条項が規定されることがあります。
これは、少数株主は投資契約の当事者ではないけれども、経営株主との間に一定の人的・組織的関係(親子や子会社など)があり、経営株主において少数株主をコントロールできるような場合に、有効な記載方法です。

条項のタイトル・番号の付け方

通常、契約書では、条項の特定のため、「第1条、第2条…」など条文番号を記載します。更に、これに加えて、条文のタイトルを併記する(「第1条(当事者)」など)ことがあります。

このタイトルの併記は結構重要です。
例えば、契約交渉が何往復もしているようなケースでは、他の条文で前出の条文を引用する場合(存続条項が典型です。)に、条数ズレを修正し漏らしているケースがよく発生します。この時、「第●条(▲▲)」などとタイトル込みで引用しておくと、修正後の条項が何条かわかりやすくなり、ミスが発生しづらくなります。また、万一ミスがそのままスルーされて契約締結されていたとしても、契約解釈の場面においては、当事者の意図としては当該タイトルの条項を引用する予定であったとして、単なるミスと処理されやすくなります。
このように、各条項にタイトルを振っておくと、契約書ドラフトがしやすくなるだけでなく、契約解釈にも影響を及ぼしうるのです。

なお、そもそも、条数ズレをなくすのがベターであることは言うまでもありませんが、その際のテクニックとしては、枝番や削除記号を用いる方法があります。
例えば、契約交渉の過程で新たに条項を追加するときは、「第●条の2(▲▲)」などとして、後続の条文番号がズレなくて済むようにする方法があります。逆に、契約交渉の過程で条項を削除するときは、そのまま削除すると後続の条文番号がズレてしまうことから、「第●条(意図的に削除)」などとしておく方法があります。

条文の構造

条文の構造は、概ね「主語、客体、(時点)、述語」で構成されています。
例えば、「甲は、乙に対し、(●●までに)▲▲しなければならない」というイメージです。

以上が基本ですが、当然、実際の条項はしばしば長文になります。そのため、主語と述語が対応していなかったり、主語が2回出てきたり、客体が抜けていたり、ということが意外と発生します。
特に、主語と客体については、誰が権利を持っていて、誰が当該権利に対応する義務を負っているかを明確にするものなので、とても重要です。契約が、債権的な法的拘束力を発生させるものであるということから、誰が誰に対しどのような権利を持っている(義務を負っている)のかを常に意識しましょう。

「及び」「並びに」「又は」「若しくは」

形式面の話になりますが、これらはよく使われる接続詞です。
「及び」と「並びに」は、いずれも、AもBも両方、という意味です。他方、「又は」と「若しくは」は、AかBのいずれか、という意味です。

では、「及び」と「並びに」、「又は」と「若しくは」はどう使い分けるのでしょうか。
これには決まった作法があって、並列の事項を複数の階層で記載するときに、一番小さな階層で「及び」を1回だけ用い、それより大きい階層には全て「並びに」を用いることになっています。
例えば、「第1条第1項及び第2項並びに第2条第1項」などというふうに使います。
「又は」「若しくは」も同じで、一番大きな階層で一度だけ「又は」を用い、それより小さい階層では「若しくは」を用います。
例えば、「第1条第1項若しくは第2項又は第2条第1項」などというふうに使います。

こういった形式面のルールは他にもたくさんあります。
「条文の読み方」(法制執務用語研究会)という書籍に詳しく解説されていますので、もっと知りたい方にはお勧めです。

「するものとする」「しなければならない」

例えば、甲が乙に支払義務を負う条文の表現を考えたとき、主に以下の2つが考えられます。
「甲は、乙に対し、金1,000,000円を支払うものとする。」
「甲は、乙に対し、金1,000,000円を支払わなければならない。」

これらを、意識的に使い分けることもなく契約書を作成している方もいるかも知れません。
しかし、契約書が法的拘束力を生じさせることを意図している以上、後者の表現のほうが適切であることは疑いがありません。前者の例は、場合によっては、明確な義務ではないので裁判に基づき執行することができない、というケースもあり得るのです(この例では差が出ないと思いますが。)。
なんとなく、後者の表現は角が立つので、前者の表現を使ってしまいがちですが、契約書の裁判規範性も考えると、なるべく後者の表現を用いたほうが良いのです。

立証責任

契約書を裁判で証拠として用いる場合、問題になるのが立証責任です。
どんなに自社に有利な条項でも、裁判では、立証できなければ勝てないからです。例えば、次のような例を見てみましょう。

「甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、当該損害を賠償しなければならない。ただし、故意又は重過失がないときはこの限りでない。」
「甲及び乙は、本契約に違反して相手方に損害を与えた場合には、故意又は重過失がある場合に限り、当該損害を賠償しなければならない。」

この2つの文章は、意味としては同じです。しかし、一般に、但書は、立証責任を転換するとされています。
そのため、前者の例では、損害賠償の請求を受ける側に、自己に故意又は重過失がないことの立証責任があり、後者の例では、損害賠償請求をする側に、相手方に故意又は重過失があることの立証責任があると解される可能性があるのです。

立証責任は、証拠へのアクセス可能性や「悪魔の証明」(ないことの証明は難しい)はなるべく避けるなど、諸般の事情・観点から解釈され、条項の立て付けのみで判断されるわけではありません。しかし、自社に不利な解釈をされるリスクを事前に回避しておくことに越したことはありません。

締結日

意外に悩むのが契約書の締結日です。
あり得る考え方は、以下のようなものです。

①最初に契約書に押印した当事者が押印した日
②最後に契約書に押印した当事者が押印した日
③実質的に両当事者が内容に合意した日

この点、実務的には、多くの場合②が採用されていると思われ、基本的にはそれでよいでしょう。

ただし、契約締結日が何らかの法的効果やその要件に紐付けられているケースでは、安易な判断は禁物です。
例えば、契約期間中は報酬が発生するとしている場合や、契約締結日時点の認識を基準に表明保証が設定されているようなケースです。

契約締結日をいつにするかは、結局のところ当事者間の合意によりますから、このようなケースでは、柔軟に契約締結日を調整する必要があります。

署名欄

法人間で契約する場合、法人を代表する権限のある者、つまり代表取締役の名義で契約書に署名する必要があります。
たまに、部長名義などでサインされていることがありますので、気をつけましょう。ただし、部長などであっても、会社から契約締結権限が授与されていれば問題はありません。よって、代表取締役以外の名義で相手方が契約締結しようとしてきたときは、必ず契約締結権限の有無を確認するべきです。

これは、注文書などであっても同様で、ライトなイメージからか、担当者レベルでの押印で済ませているケースがよくあります。
これも、契約締結権限があれば問題はないのですが、後々になって、「会社としてはそんな契約はしていない、担当者が勝手にサインしただけだ」などと言われないよう注意しましょう。

ちなみに、各当事者の押印のために、1通の契約書原本を郵送で回覧するのが通常ですが、時間的余裕がない多数当事者の契約ですと、時間がかかりすぎてこの方法を採用できないことがあります。
このような場合のテクニックとして、契約書のサインページだけを別で作り、各当事者が押印して、取りまとめを行う当事者に送付するというやり方もあります。株主間契約では、このような方法が採用されることがよくあります。

もっとも、電子契約が流行れば、今後はこのような手法も不要になるかもしれません。

 

 

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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