ストックオプションの行使条件の変更手続(最高裁平成24年4月24日判決を題材に)

ファイナンス
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(本記事は、過去に当職が執筆した記事を改変して掲載するものです)

ベンチャー企業の中には、ストックオプションを、周りの経営者やコンサルなどに勧められ、手続についてよく理解しないまま発行してしまう例が見られます。
本稿は、最高裁平成24年4月24日判決を題材として、ストックオプション周りの手続理解を深めることを目的としています。

事案の概要

Y社は、株主総会において新株予約権を発行する旨の特別決議をした際、新株予約権の行使時にYの取締役であることを行使条件として定めたほか、その他の行使条件は、取締役会の決議に基づき、Yと割当てを受ける取締役との間で締結する新株予約権割当契約で定めるとして、取締役会に新株予約権の行使条件の内容を決定することを委任しました。委任を受けた取締役会は、新株予約権に「行使の時点でY社が上場していること」(以下「上場条件」)を行使条件として定めたうえ、取締役らと新株予約権割当契約を締結し、取締役らにストックオプションとして新株予約権を発行しましたが、上場が難しくなったため、Y社の取締役らは、取締役会決議において、上場条件を撤廃したうえ、新株予約権を行使しました。
そこで、Y社の監査役であるXが、Y社の取締役らによる新株予約権の行使は、行使条件を変更する取締役会決議が無効であるにもかかわらずそれに従ってされたものであって、当初定められた行使条件に反するものであるから、右新株予約権の行使による株式の発行は無効であると主張して、会社法828条1項2号に基づいて新株発行無効の訴えを提起した事案です。

主な争点

1 株主総会決議により委任を受けた取締役会が定めた新株予約権の行使条件をその後に変更する取締役会決議の効力
2 非公開会社において、株主割当以外の方法により発行した新株予約権の行使条件に反した当該新株予約権の行使による株式発行は無効といえるか

裁判所の判断

本判決は、まず、争点1について、

「新株予約権の発行後に行使条件を変更することができる旨の明示の委任がないときは、当該新株予約権の発行後に上記行使条件を取締役会決議によって変更することは許されない」

と判断しました。

次に、争点2を判断する前提として、非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当以外の方法によってなされた募集株式発行の効力について以下のような判断をしています。

「非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当以外の方法による募集株式発行がされた場合、当該特別決議を欠く瑕疵は株式発行の無効原因となる」

このように判断したのは、株主総会による委任を受けた取締役会により、株主総会の委任の趣旨に沿って定められた行使条件は、株主総会によって付された行使条件であるとみることができるところ、株主総会によって行使条件が付された場合に、行使条件に違反した新株予約権の行使による株式発行は、株主総会の特別決議を経ないまま募集株式を発行したのと変わりがないと考えられるからです。

さらに、争点2について、

「行使条件が当該新株予約権を発行した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているときは、上記行使条件に反した新株予約権の行使による株式の発行には、無効原因がある」

と判断し、本件新株予約権が経営陣の士気の高揚を目的としていることから、上場条件はその目的を達するための動機付けとなるものであり、本件新株予約権の重要な内容を構成しているとして、上記行使条件に違反した新株予約権の行使による株式発行には無効原因があると判断し、会社側の上告を棄却しています。

検討

会社法上、新株発行無効の訴えにおける無効原因は明確に定められておらず、何が無効原因となるかは解釈に委ねられていました。
かつて判例は、旧商法下における新株発行について、新株発行は株式会社の組織に関するものではあるものの、授権資本制度が採用されて取締役会の権限とされ、会社の業務執行に準ずるものとして取り扱われているとの考えから、非公開会社か公開会社かを区別せず、新株発行にあたって必要な株主総会決議を欠いたとしても、会社内部の手続の欠缺にすぎないとして、無効原因にはならないと判断していました(最判昭和36年3月31日、最判平成6年7月14日)。

授権資本制度とは、会社に資金調達の必要が生じるたびに、株主総会を開き新株発行を決定していれば迅速さが失われ、経営効率が悪くなることから、取締役会の決議で新株を発行できるようにした制度です。
しかし、会社法上、公開会社の場合は、第三者に対する特に有利な金額での新株発行でない限り、取締役会で募集事項を決定することができるのに対し、非公開会社の場合は、募集株式の発行にあたって、発行する募集株式の数や払込金額などの募集事項を決定する権限は株主総会が有するようになり(会社法199条1項、2項)、また、株式発行無効の訴えの提訴期間も、公開会社の場合は6か月であるのに対し、非公開会社は1年とされており(会社法828条1項2号)、非公開会社においては、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益を重視するという姿勢がとられています。

そこで、本判決は、会社法の解釈として、非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当以外の方法による募集株式発行がされた場合、当該特別決議を欠く瑕疵は株式発行の無効原因になると判断したものです。
そのうえで、新株予約権の行使につき、軽微な行使条件の違反にとどまらず、行使条件が「当該新株予約権を発行した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているとき」は、非公開会社において株主割当以外の方法による募集株式の発行がされた場合と同様に考えて、行使条件に違反した新株発行は無効であると判断したものです。

なお、会社法の下では、募集事項の決定を委任する場合においても募集新株予約権の内容は株主総会において定めなければならないとされている(会社法239条1項1号)ため、現在では、そもそも募集新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任することはできません。争点1に対する判断は、会社法下における新株予約権の発行について判断するものではありません。

ベンチャー企業にとっての注意点

上記のように、会社法の下では、非公開会社の場合行使条件は株主総会で決定する以外にありません。
そのため、行使条件の決定を取締役会に委任することはそもそも不可能になっていますし、現在も、既発行のストックオプションにかかる行使条件を変更するには、株主総会の特別決議が必要であることに変わりはありません(なお、新株予約権者全員の同意も必要ですし、変更登記も必要になります。)。今でも、古い書式を使っているからなのかわかりませんが、行使条件等の「新株予約権の内容」の決定を取締役会に委任してしまっている例もありますし、取締役会決議で行使条件を変更しようとする例が稀に見られます。
そのようなことがないよう、ストックオプションを発行するとか、発行済のストックオプションの内容を変更する場合には、必ず専門家に相談するべきです。

 

 

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

 

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