Fintechビジネスの法的留意点

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一言で「Fintech」といっても、その内容は様々です。サービスの内容に応じて、資金決済法、銀行法、割賦販売法など、関係する法律も異なってきます。本稿は、Fintechビジネスにおいて問題となることが多い各法律の内容を俯瞰することで、自らのビジネスに関係する法律とその規制内容の概要を把握して頂くことを目的としています。

1 資金決済法(前払式支払手段、資金移動業、収納代行)

資金決済法は、資金決済に関するサービスの適切な実施を確保し、その利用者等を保護するとともに、当該サービスの提供の促進を図るため、前払式支払手段の発行、銀行等以外の者が行う為替取引(=資金移動)、暗号資産の交換等及び銀行等の間で生じた為替取引に係る債権債務の清算について、登録その他の必要な措置を講じ、もって資金決済システムの安全性、効率性及び利便性の向上に資することを目的とする法律です(1条)。

ここでは、前払式支払手段と、資金移動業について解説します。

⑴ 前払式支払手段

① 前払式支払手段とは

前払式支払手段とは、証票等に記載され、又は電磁的方法により記録される金額に応ずる対価を得て発行される証票等又は番号、記号その他の符号であって、発行者等から物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために提示、交付、通知その他の方法により使用することができるものを言います(3条1項1号)。

ただし、有効期限が発行日から6ヶ月以内の場合など、いくつかの例外に該当する場合は適用除外とされています(4条)。

なお、前払式支払手段には、「自家型前払式支払手段」と「第三者型前払式支払手段」があり、それぞれで多少規制内容は異なります。前者は、各企業が発行する、自社の商品購入等に使用できるもの(チャージ、ポイントなど)、後者は、クオカード等の広く使用できるもの、が該当します。

② 規制内容

前払式支払手段に該当する場合、主として次のような規制に服することになります。

  • 財務局への届出又は登録
  • 利用者保護措置(所定の情報提供等)
    →ポイント等を発行している会社のホームページ等では、よく「資金決済法に基づく表示」といった表示がなされていますが、これは、この情報提供義務を履行するために行われているものです。
  • 発行保証金の供託
    →3月末あるいは9月末において、発行している前払式支払手段の未使用残高が1,000万円を超えたときは、その未使用残高の2分の1以上の額に相当する額を最寄りの供託所(法務局)に供託する必要があります。

③ ポイント

前払式支払手段該当性の検討にあたっては、①対価を得て発行するものか、②有効期限は6ヶ月超か、が主なポイントになります。

すなわち、無償発行するポイントは、①に当たらないため、前払式支払手段には当たりません。また、有効期限が6ヶ月以内の場合も、前払式支払手段に当たりません。ポイントサービスなどで、よく有効期限を6ヶ月と定めているものを見ると思いますが、それは、前払式支払手段への該当性を回避するためである場合があります。

⑵ 資金移動業

① 資金移動業とは

資金移動業とは、銀行等以外の者が為替取引を業として営むことをいい(3条2項)、「為替取引」とは、最高裁判例によれば、「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」をいうとされています(最高裁平成13年3 月12日第三小法廷決定)。

イメージしづらいかもしれませんが、そもそも資金移動業とは、これまで銀行が独占していた為替取引(≒銀行振込)を、少額(1回あたりの送金額100万円以下)の場合に民間に開放しようという意図でできたものですので、銀行振込をイメージするとわかりやすいです。つまり、予め顧客から資金を預かり、顧客の依頼を受けて、資金を移動させることが為替取引です。

なお、2020年の資金決済法改正では、サービス利用の実態を踏まえ、資金移動業は以下の3区分に分類され、それぞれの実際に合わせて規制されることになりました。

  • 第一種資金移動業(100万円超の送金が可能)
  • 第二種資金移動業(100万円以下の送金が可能)
  • 第三種資金移動業(5万円以下の送金が可能)

② 規制内容

資金移動業に該当する場合、第1種〜第3種のどの資金移動業かにもよりますが、大枠としては、主に以下の規制が課されます。

  • 財務局による認可又は登録
  • 滞留規制
    →預かった資金が資金移動業者の下で滞留しないよう、業種ごとに、資金を預かったらすぐ送金する、送金と無関係な資金の払出しを求める等の措置が必要になります。
  • 履行保証金の保全
    →供託、保全契約、信託、分別管理等の方法により、顧客から預かった資金を保全することが求められます。

③ ポイント

「為替取引」の定義は、上記の通り曖昧なものです。
後述(下記⑶)のとおり、「為替取引」に該当する行為が一部明確化されたものの、金融庁の事務ガイドライン(資金移動業関係)には、次の記載があります。

法第2条の2の規定は、同条に定める行為であって、内閣府令で定める要件に該当するものが為替取引に該当することを確認するものであるところ、今後新たなビジネ スモデルが登場する可能性等もあることから、同条に定める行為に該当しない行為及び同条に定める行為には該当するが内閣府令に定める要件に該当しないものが将来にわたって直ちに為替取引に該当しないことを意味するものではなく、事業者の行為が為替取引に該当するかは、その事業者が行う取引内容等に応じ、最終的には個別具体的に判断することに留意する。

これはつまり、「為替取引」に該当するかは、なお上記最高裁判例等を踏まえた個別具体的な検討を要するということを意味します。

⑶ 収納代行

これまで、いわゆる収納代行は、社会的に問題化していなかったことから、為替取引には当たらないという整理で実務は動いていました。しかし、個人間送金アプリなどの登場により、少なくとも個人間の送金については、何らかの規制が必要ではないかという議論がなされていました。この点、実は、2020年の資金決済法改正では、「為替取引」の定義について、次のような条項が追加されています。

第二条の二 金銭債権を有する者(以下この条において「受取人」という。)からの委託、受取人からの金銭債権の譲受けその他これらに類する方法により、当該金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人に当該資金を移動させる行為(当該資金を当該受取人に交付することにより移動させる行為を除く。)であって、受取人が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であることその他の内閣府令で定める要件を満たすものは、為替取引に該当するものとする。

ここでいう内閣府令で定める要件とは、以下のような規定となっています。

第一条の二 法第二条の二に規定する内閣府令で定める要件は、受取人(同条に規定する受取人をいう。以下この条において同じ。)が個人(事業として又は事業のために受取人となる場合におけるものを除く。)であり、かつ、次に掲げる要件のいずれかに該当することとする。
一 受取人が有する金銭債権に係る債務者又は当該債務者からの委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)その他これに類する方法により支払を行う者(第三号において「債務者等」という。)から弁済として資金を受け入れた時(他の者に資金を受け入れさせる場合にあっては、当該他の者が弁済として資金を受け入れた時)までに当該債務者の債務が消滅しないものであること。
二 受取人が有する金銭債権が、資金の貸付け、連帯債務者の一人としてする弁済その他これらに類する方法によってする当該金銭債権に係る債務者に対する信用の供与をしたことにより発生したものである場合に、当該金銭債権の回収のために資金を移動させるものであること。
三 次に掲げる要件のいずれにも該当すること。
イ 受取人がその有する金銭債権に係る債務者に対し反対給付をする義務を負っている場合に、当該反対給付に先立って又はこれと同時に当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該反対給付が行われた後に当該受取人に当該資金を移動させるものでないこと。
ロ 受取人が有する金銭債権の発生原因である契約の締結の方法に関する定めをすることその他の当該契約の成立に不可欠な関与を行い、当該金銭債権に係る債務者等から弁済として資金を受け入れ、又は他の者に受け入れさせ、当該受取人の同意の下に、当該契約の内容に応じて当該資金を移動させるものでないこと。

簡単に言うと、受取人が個人である場合の収納代行(個人間送金や割り勘アプリ等)については、為替取引に該当するという整理がなされたことになります。個人間送金については、ほとんどが少額送金と思われますから、改正法でいう第3種資金移動業(5万円以下の送金)の規制に服することが想定されます。

なお、受取人が事業者である場合の収納代行については、逆に、為替取引に該当しないことが明確になったとも言えますが、収納代行の法的整理(通常、法的には「代理受領」として構成されます)を踏まえて規約等を立てつける必要性は、これからも変わりありません。

2 銀行法(電子決済等代行業)

いわゆる銀行口座間の送金に介入するサービスや家計簿アプリなど、銀行口座とAPI連携したサービスの登場により、2017年の銀行法改正で、「電子決済等代行業」という類型が設けられ、銀行法で規制されることになりました。それぞれ、決済指示伝達サービスと口座情報取得サービスと呼び、以下で解説します。

⑴ 決済指示伝達サービス

決済指示伝達サービスは、次のように定義されています。

銀行法第二条(定義等)
17 この法律において「電子決済等代行業」とは、次に掲げる行為(第一号に規定する預金者による特定の者に対する定期的な支払を目的として行う同号に掲げる行為その他の利用者の保護に欠けるおそれが少ないと認められるものとして内閣府令で定める行為を除く。)のいずれかを行う営業をいう。
一 銀行に預金の口座を開設している預金者の委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けて、電子情報処理組織を使用する方法により、当該口座に係る資金を移動させる為替取引を行うことの当該銀行に対する指図(当該指図の内容のみを含む。)の伝達(当該指図の内容のみの伝達にあつては、内閣府令で定める方法によるものに限る。)を受け、これを当該銀行に対して伝達すること。
二 (略)

資金移動に関与するという点で、資金決済法上の資金移動業に近いですが、あくまで資金移動の主体は銀行であるという点で、資金移動業とは異なります。決済指示伝達サービスは、銀行への決済指示の伝達を、銀行口座との更新系APIの連携によって仲介するようなサービスがこれに当たります。決済代行や収納代行でも、このような機能を有する場合は、銀行法の規制を受けることになります。

⑵ 口座情報取得サービス

口座情報取得サービスは、次のように定義されています。

銀行法第二条(定義等)
17 この法律において「電子決済等代行業」とは、次に掲げる行為(第一号に規定する預金者による特定の者に対する定期的な支払を目的として行う同号に掲げる行為その他の利用者の保護に欠けるおそれが少ないと認められるものとして内閣府令で定める行為を除く。)のいずれかを行う営業をいう。
一 (略)
二 銀行に預金又は定期積金等の口座を開設している預金者等の委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けて、電子情報処理組織を使用する方法により、当該銀行から当該口座に係る情報を取得し、これを当該預金者等に提供すること(他の者を介する方法により提供すること及び当該情報を加工した情報を提供することを含む。)。

これは、銀行の参照系APIと連携した家計簿アプリが想定されています。MoneyForwardやZaimは、之に当たります。

⑶ 規制内容

電子決済等代行業(決済指示伝達サービス、口座情報取得サービス)に対する規制の主な内容は、次のとおりです。

  • 財務局への登録
    →口座情報を扱うため、セキュリティ面で厳しく審査されます。特に、決済指示伝達サービスは、ハッキング等による被害が大きくなる可能性が相対的に高いため、より慎重な審査がなされているようです。
  • 利用者への説明義務
    →家計簿アプリを提供している会社のホームページ等では、よく「電子決済等代行業に係る表示」といった表示がなされていますが、これは、この説明義務を履行するために行われているものです。
  • 銀行との契約締結義務
    →銀行口座とのAPI連携が想定されていることから、銀行との間の責任分担を明確にするため、このような義務が課せられています。多くの場合、銀行側において、契約内容の一部を公表する等しています。
  • 帳簿書類/報告書の作成義務

3 割賦販売法(クレジットカード番号等取扱業者)

クレジットカード決済に関与する事業者の拡大を受けて、2020年の割賦販売法の改正により、以下のような事業者が、同法の規制対象になりました。

  • 立替払取次業者のために、加盟店に対して、立替金の交付を行う事業者
  • 利用者から提供を受けたクレジットカード番号等を用いて、次回以降、当該クレジットカード番号等を入力することなく、商品購入等を行うことができるサービスを提供する事業者
  • 上記決済サービスについてクレジットカード番号等の管理を受託する事業者
  • 後払い決済において立替払取次業者にクレジットカード番号等を提供する事業者

Fintechビジネスの中には、クレジットカード決済に関与するケースもあるため、同法の適用対象にならないかについても、慎重な検討が必要です。

 

 

 

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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