メタバース/XR(AR、VR、MR)ビジネスの法的留意点

メタバース/XR
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メタバースやXRの分野では、考えなければならない法的論点がいくつかありますが、それらを論じているものは本稿執筆時点ではあまり多くありません。そこで、個人的に感じていることをまとめてみたいと思います。

なお、仮想空間についての諸課題については、経産省が報告書をまとめていますが、まだ初期的検討の段階で、問題提起や論点整理にとどまっています。
https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210713001/20210713001.html

仮想空間内のアバター、オブジェクトに対する権利

オブジェクトに対する権利

まず、仮想空間内に、建物、机、椅子などのオブジェクトを配置する場合に、これらのものが所有権の対象になるでしょうか。答えはNoです。民法では、所有権は「所有物」の使用、収益及び処分をする権利であり(206条)、ここでいう所有「物」とは有体物をいうとされている(85条)からです。

(定義)
第八十五条 この法律において「物」とは、有体物をいう。

(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

では、これらの仮想オブジェクトに著作権は生じるでしょうか。これはYesでしょう。著作物とは、創作的な表現物であって、有体物には限定されていないからです。著作物を創作した者が著作権者となり、複製権(21条)、上演権(22条)などを専有します。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

次に、仮想空間内で、美感を感じさせるオブジェクトを作り出した場合、これに意匠権は生じるでしょうか。これはNoでしょう。意匠権も、物品、つまり有体物に発生するものとされているからです(2条)。この点に関し、令和元年意匠法改正により、いわゆる画像意匠が登録可能なものとされましたが、あくまで①機器の操作の用に供される画像(操作画像)と、②機器がその機能を発揮した結果として表示される画像(表示画像)のみが保護の対象となります。仮想オブジェクトは、これらには該当しないと考えられるため、意匠法の保護を受けることは難しいと考えられます。

(定義等)
第二条 この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等又は画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限り、画像の部分を含む。次条第二項、第三十七条第二項、第三十八条第七号及び第八号、第四十四条の三第二項第六号並びに第五十五条第二項第六号を除き、以下同じ。)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

以上から、法定の権利による保護は、著作権による保護がメインとなると言えそうです。
また、それとは別に、契約上のルールを設けて、オブジェクトを保護する、といった方向性となるでしょう。

アバターに対する権利

仮想空間においては、人々は、自身の分身となるアバターを作成し、それを仮想空間内で使用します。では、そのアバターにはどのような権利が発生するでしょうか。

まず、アバターの「見た目」に対しては、著作権が発生することが考えられます。もっとも、キャラクターについて既に言われているように、アバター自体は概念であって、具体的な表現物ではないため、アバターそのものに著作権が発生するというよりも、例えば、アバターが一定のポーズをとっている画像があるとして、その画像を複製したような場合に、著作権侵害になる、ということになります。

次に、生身の人間について認められているような人格権は、アバターに認められるでしょうか。人格権とは、肖像権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権など、個人の人格に基づく権利であり、憲法13条により発生すると考えられています。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

これについては、アバターそのものは憲法13条の「国民」に該当しないため、人格権を持つことはないでしょう。しかし、個人とアバターが紐付いており、それが仮想空間内でも示されている場合(仮想空間内で、このアバターは誰のアバターであるということが分かる場合)、アバターに対する人格権侵害が、個人に対する人格権侵害として認定できる場合もあり得るものと考えられます。具体的に、いくつかの事例を以下で考えていきます。

仮想空間内の権利侵害

肖像権

最高裁は、「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」とするほか、「自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり」と判断しています(最一小判平17・11・10民集59巻9号2428頁)。これを一般に「肖像権」と呼びます。

この肖像権は、アバターにも認められるでしょうか。例えば、他人のアバターをスクリーンショットで撮影し、これをSNS等に挙げるのは、肖像権の侵害になるでしょうか。

これについては、結論として肖像権侵害であると評価することは困難でしょう。なぜなら、既に述べたとおり、アバターそのものが人格権、つまり肖像権を持つわけではありませんし、仮に個人とアバターが仮想空間内で紐付いているとしても、個人の肖像が撮影され、公表されたとは言えないからです。

名誉毀損

名誉毀損とは、他人の名声や信用といった人格的価値について社会から受ける評価を違法に低下させることをいいます。

仮に、アバターが仮想空間内で一定の社会的評価を獲得していた場合に、それを低下させる行為は、名誉毀損となるでしょうか。例えば、仮想空間内の市の市長について、仮想空間内で不倫をしている、といった投稿をSNS上で行った場合に、名誉毀損となるでしょうか。

これについては、アバターそのものに名誉権が認められないとしても、個人とアバターが仮想空間内で紐付いている場合には、当該個人について、「(不倫のような)行為を仮想空間内で行う人物である」という印象を与えるため、当該個人の社会的評価を低下させると言えそうです。

ただし、個人に対する権利侵害と構成する以上、ここでいう「社会的評価」とは、仮想空間内の社会からの評価ではなく、あくまで現実世界において当該個人が受けている評価となるでしょう。つまり、仮想空間内で市長に就任している(=仮想空間内での社会的評価は高い)ということは考慮されず、現実世界での社会的評価が基準となると考えられます。

さらに、「(不倫のような)行為を仮想空間内で行う人物である」という印象を与えることが、直ちに現実世界における個人の社会的評価を低下させるといえるかも、一考の余地があります。現在存在する仮想空間は、現実世界に準じた世界観というよりも、どちらかといえば、「現実世界でできないことをやる」という娯楽的要素の強いものです。そのため、仮想空間内で自己のアバターを操作して、仮想空間内で不倫をしたとしても、第三者から見れば、所詮仮想空間内での「お遊び」であり、それが故に、そういった操作をしたプレイヤーの社会的評価が低下するとは直ちには言えないように思われます。もっとも、この観点は、仮想空間の立ち位置が、ゲーム的要素の強いものか、現実世界になるべく近づけるものか等によっても異なると考えられますので、利用している仮想空間プラットフォームの性質にも関わってくる問題であると考えられます。

(2022年11月24日追記)

2022年8月31日、アバターの姿で動画投稿をするVチューバーが、アバターに対する中傷により名誉を傷つけられたとして、損害賠償を求めた事件の判決が大阪地裁でありました。報道によると、アバターの言動は、女性自身の個性を生かし、体験や経験を反映したものだとし、女性がアバターで表現行為を行っている実態にあるとして、侮辱の矛先が表面的にはアバターに向けられたものだとしても、アバターで活動する者に向けられたと認められ、名誉感情を侵害されたのは女性だ、と判断したようです。ここで注意しなければならないのは、認められたのは「名誉感情」の侵害であり、狭義の名誉毀損(外部的評価の低下)を認めたわけではなさそうであるということです。この事案のように、名誉感情侵害という構成で攻めた場合には、損害賠償が認められる余地はあると思われます。

「なりすまされない権利」

仮想空間上で、第三者が他人のアバターになりすまし、そのアバター本人のように振る舞う、いわゆる「なりすまし」行為も生じる可能性があります。

これについては、既にSNSのなりすまし行為について地裁レベルの判例が出てきており、それによれば、 人は、「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」を有しており、当該利益の侵害は、「なりすましの意図・動機、なりすましの方法・態様、なりすまされた者がなりすましによって受ける不利益の有無・程度等を総合考慮して、その人格の同一性に関する利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断して、当該行為が違法性を有するか否かを決すべきである。」とされています(大阪地裁H28・2・8、大阪地裁H29・8・30)。

この「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」について、「なりすまされない権利」とか「アイデンティティー権」などと呼ばれることがありますが、厳密には、権利として認められたというより、「法律上保護される利益」(民法709条)に当たり、不法行為法による救済を求めることができると位置付けられるものと考えられます。これまでの不法行為法における「受忍限度論」の枠組みです。

したがって、上記基準に照らして悪質な「なりすまし」行為であれば、それが仮想空間内であっても、不法行為法上違法となり得ると考えられます。

もっとも、この場合も、なりすまされたアバターが、第三者から見て、現実世界の特定の人物のアバターであるとの誤認を与えるものであることが前提となるでしょう。なりすまされるのは現実世界の特定の人物であって、アバターではないからです。

他人のオブジェクトの損壊

仮想空間内の自分の家や物について、他人に損壊された場合、どういった保護が受けられるでしょうか。

これについては、既に見たとおり、これらは有体物ではなく、「所有権」の対象にはならないため、器物損壊罪(刑法261条)や、所有権侵害を理由とする損害賠償請求は認められないでしょう。

しかしながら、仮想空間内のオブジェクトについても、有償で入手したものであるとか、自ら苦労してデザインしたというような、一定の財産的価値がある場合も考えられます。こういった場合も、仮想空間内のオブジェクトを損壊されないことは、「法律上保護される利益」(民法709条)があると考えられますので、不法行為法上の救済はあり得るものと考えられます。

個別事例の考察

現実空間を3Dスキャンして仮想空間化する場合の問題点

まず、例えば、美感を感じさせる建物等のオブジェクトを3Dスキャンして仮想空間化する場合に、意匠権を侵害しないかどうかですが、これについては、そもそもそういったオブジェクトに意匠権が生じることは通常考え難く、意匠登録も難しいと思われるため、意匠権侵害とはならないと考えられます。

次に、例えば、現実世界を3Dスキャンするにあたって、風景の一部に著作物(看板、ポスター等)が写り込んでしまった場合に、著作権侵害とならないかが問題になります。
これについては、著作物の複製行為であり、また、それを仮想空間に反映させる際に公衆送信を伴うと考えられますので、形式的には著作権侵害に当たると考えられます。
問題は、著作権の権利制限規定の適用があるかどうかですが、ここでは著作権法30条の2(付随対象著作物の利用。いわゆる「映り込み」規定)の適用を検討することになります。同条は、元々は写真撮影・録音・録画のみが対象でしたが、令和2年の著作権法改正で、「事物の撮像」が広く対象となったため、現実空間の仮想空間化においても利用可能となりました。ただし、同条の適用を受けるためには、以下の赤字部分の各要件についても充足する必要があり、慎重な検討が必要と言えるでしょう。

(付随対象著作物の利用)
第三十条の二 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

展示会や試着、ショッピング等ができる仮想空間の問題点

例えば、仮想空間内で展示会や試着、ウィンドウショッピングができ、そのまま商品を購入できるようなサービスを想定します。

こういったサービスの場合、例えば、仮想空間内での商品の再現度が低く、購入者において商品の仕様について勘違いをして商品を購入してしまう、といったケースが起こりうるでしょう。この場合、錯誤を理由に売買契約を取り消されてしまったり(民法95条)、購入者が消費者であれば、不実告知(消費者契約法4条1項1号)や不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)を理由に取り消されてしまう可能性があります。したがって、そういった事態とならないよう、事業者としては、商品の再現度を高めることはもちろんのこと、限界がある部分(例えば、商品の重さは仮想空間内での再現は難しいと考えられます)については、適切に文字等で情報提供することが検討に値します。

(錯誤)
第九十五条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

(消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し)
第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

2 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。

さらに、仮想空間プラットフォームは通常オンライン上に存在するため、そこでの商品購入は、特定商取引法でいう「通信販売」に該当すると考えられます。そのため、通信販売規制の適用を受けることになります。通信販売規制にあっては、特に広告規制が重要となりますので、商品購入ページには、法定の記載事項を漏れなく記載する必要があるでしょう。

2 この章及び第五十八条の十九において「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う商品若しくは特定権利の販売又は役務の提供であつて電話勧誘販売に該当しないものをいう。

(通信販売についての広告)
第十一条 販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。ただし、当該広告に、請求により、これらの事項を記載した書面を遅滞なく交付し、又はこれらの事項を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を遅滞なく提供する旨の表示をする場合には、販売業者又は役務提供事業者は、主務省令で定めるところにより、これらの事項の一部を表示しないことができる。
一 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)
二 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
三 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
四 商品若しくは特定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(第十五条の三第一項ただし書に規定する特約がある場合にはその内容を、第二十六条第二項の規定の適用がある場合には同項の規定に関する事項を含む。)
五 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項

仮想空間に職場を構築する場合の問題点

例えば、仮想空間内に職場を形成し、そこで従業員が就業するという形も、将来的にはあり得るかもしれません。

労働安全衛生規則では、職場の気積確保や換気について細かく定められていますが、仮想空間の場合、物理的な作業場ではない以上、「屋内作業場」には該当せず、これらの規制の適用はないと考えられます。

(気積)
第六百条  事業者は、労働者を常時就業させる屋内作業場の気積を、設備の占める容積及び床面から四メートルをこえる高さにある空間を除き、労働者一人について、十立方メートル以上としなければならない。

(換気)
第六百一条  事業者は、労働者を常時就業させる屋内作業場においては、窓その他の開口部の直接外気に向つて開放することができる部分の面積が、常時床面積の二十分の一以上になるようにしなければならない。ただし、換気が十分行われる性能を有する設備を設けたときは、この限りでない。
2  事業者は、前条の屋内作業場の気温が十度以下であるときは、換気に際し、労働者を毎秒一メートル以上の気流にさらしてはならない。

他方で、使用者は、いわゆる「職場環境配慮義務」を負っているとされています。つまり、「使用者は被用者に対し、労働契約上の付随義務として信義則上職場環境配慮義務、すなわち被用者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮すべき義務を負っており、被告連合会も原告ら被用者に対し同様の義務を負うものと解される。」(津地裁H9・11・5)とされているのです。典型例は、職場内でセクハラやパワハラがなされている場合に、使用者として適切な懲戒処分を課したり、異動させたりする義務が考えられます。

そして、この法理は、たとえ仮想空間内の職場であっても妥当すると考えられます。なぜなら、結局のところ、仮想空間内での職場環境の悪化により不利益を被るのは、生身の従業員であるからです。したがって、使用者は、仮想空間内でのセクハラやパワハラを放置すれば、法的責任を負う可能性があるように思われます。

仮想空間プラットフォーム提供者のリスク

仮想空間プラットフォームの提供者は、プラットフォーマーとして、仮想空間内を健全な空間に維持する契約上ないし信義則上の義務を負う可能性があります。これについては、以前プラットフォーマーの責任として記事にしているので、そちらを参照してください。

あとは、仮想空間プラットフォーム特有の問題として、マシンパワー不足や回線速度不足によるトラブルへの対応が考えられるかもしれません。仮想空間プラットフォームの利用には、通常のインターネット利用以上に、一定のマシンパワーや回線速度が要求されると考えられるためです。

これについては、利用規約やSLA(サービスレベルアグリーメント)などにおいて、推奨環境の明示や免責を定めることで対処することになるでしょう。

AR/MRアプリの問題点

AR/MRアプリにおいては、現実世界とリンクしていることからくる様々な問題があります。これについても、プラットフォーマーとして、一定の対処が必要と考えられます。

既に「ポケモンGO」などで先例があるので、それを参考に、例えば以下のような事項について、注意喚起のポップアップ、利用規約への記載等の対処を検討することになるでしょう。

  • 歩きスマホのリスク、注意喚起
  • ながら運転のリスク、注意喚起
  • 私有地への侵入禁止
  • 18歳未満の深夜徘徊の禁止(条例)
  • 位置情報公開のリスク、注意喚起

XRコンテンツベンダのユーザに対する責任

メタバースやXRには、以上に述べた様々な問題が想起するリスクがあります。XRコンテンツベンダにおいては、対象となるコンテンツに潜む法的リスクを正確に分析し、開発契約等において、適切なリスク分担を明確にすべきと考えられます。

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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