中小企業も無視できない、景品表示法上の表示規制について

street lights 表示規制
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景品表示法の表示規制は、消費者庁による積極的な執行が続いており、ベンチャー企業にとっても無視できないものになっています。特に、措置命令や課徴金の措置は、レピュテーション・リスクはもちろんのこと、金銭的なダメージを負うリスクも孕んでいます。本稿では、このように近年注目度が高まっている表示規制について解説します。

表示規制の概要

(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

表示規制の中核をなす景品表示法の条文は、第5条です。
表示規制は、以下の要素から構成されています。

  1. 実際のもの又は競争事業者のものよりも、
  2. 著しく優良又は有利なものであると一般消費者に誤認される表示であって、
  3. 不当に顧客を誘引し、
  4. 一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

このうち、商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良と誤認させる表示を「優良誤認表示」(法5条1号)と呼びます。また、商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利と誤認させるものを「有利誤認表示」(法5条2号)と呼びます。

表示規制に違反した場合の効果

表示規制に違反した場合、「措置命令」と「課徴金納付命令」が制裁として課される可能性があります。

措置命令」は、大抵の場合、以下を内容とする命令が下されます(いわゆる3点セット)。

  1. 自己の商品又はサービスが、有利誤認表示又は優良誤認表示であったことを一般消費者に周知徹底すること
  2. 再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること
  3. 表示行為を速やかに取りやめること、又は今後同様の表示を行わないこと

次に、課徴金納付命令は、原則として、課徴金対象行為(不当表示)によって課徴金対象期間(不当表示を行っていた期間。最大3年間)に得た売上の3%を、国庫に納付することが命じられます。違法な表示によって得た売上の一部を吐き出させるということです。

なお、実際に措置命令や課徴金納付命令が下されるのは、悪質なケースや影響力の大きなケースが目に付きます。逆に、軽微な事案の場合は、行政指導等の事実上の注意でとどまるケースもあります。よって、実務上は、消費者庁の調査が開始したら、何とか措置命令等を回避して、行政指導で済ませてもらうことができないかを検討するケースは少なくありません。

表示規制違反の典型的なケース

不実証広告(いわゆる「ナンバーワン」表示など)

不実証広告とは、例えば以下のような広告です。

  • 合理的な裏付けがないのに、「絶対痩せる」などと広告してサプリメントを販売した。
  • 不正確なマーケティング調査を元にして、「業界ナンバーワン」という表示をした。

これは、商品を実際のものよりも著しく優良なものと誤認させる表示であるため、優良誤認表示の一種であると言えます。不実証広告の調査においては、消費者庁が合理的な根拠を示す資料の提出を求めることがありますが、合理的な根拠を示すものであると認められるためには、次の2つの要件を満たす必要があるとされています。

① 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
→「客観的に実証された内容のもの」とは、次のいずれかに該当するもの。
①−1 試験・調査によって得られた結果
①−2 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献
② 表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること
消費者庁「不実証広告規制に関する指針」5p(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_34.pdf)

①との関係で特に問題になるのは、マーケティング会社に調査依頼するような場合です。悪質なマーケティング会社の場合、商品未利用者の回答も母数に入れる、依頼企業が1位の結果になるまで何度も調査を繰り返す、依頼企業が1位になった時点で調査を終了する、など、あらゆる手法を駆使して、依頼企業が望む結果を得ようとすることがあると聞きます。しかしながら、このようにして得た調査結果を利用して、依頼企業が「顧客満足度ナンバーワン」などと表示した場合、これは合理的な裏付けとは認められず、依頼企業が景品表示法違反による処分を受ける可能性があります。

実際、このようなケースで、マーケティング調査を依頼した会社が行政処分を受けるというケースも出てきており、広告主自身でも、調査結果の客観性等について十分に検討する必要があります。

※ 株式会社バンザンに対する景品表示法に基づく措置命令についてhttps://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms207_230112_01.pdf

二重価格表示

二重価格表示とは、比較対照価格を併記して表示することで、販売価格が安いものと言う印象を与える表示です。例えば次のような事例が考えられます。

  • セールと称して、過去の販売価格を比較対象としてより安い価格表示を行う。
  • 希望小売価格を比較対象価格として、より安い価格表示を行う。
  • 競争事業者の販売価格を比較対象として、より安い価格表示を行う。

これらについては、消費者庁の「価格表示ガイドライン」において留意点が解説されていますが、ガイドラインのポイントは次の通りです。

価格表示ガイドラインのポイント

1二重価格表示についての基本的な考え方
(1)次のような二重価格表示は不当表示に該当するおそれがあります。
・同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
・比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合

(2)過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
・同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはありません。
・同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるかなどその内容を正確に表示しない限り、不当表示に該当するおそれがあります。
※「最近相当期間にわたって販売されていた価格」については、価格表示ガイドライン第4の2(1)ア(ウ)を御覧ください。

(3)将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際の販売することのない価格であったり、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないなど)には、不当表示に該当するおそれがあります。

(4)希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
製造業者等により設定されあらかじめカタログ等により公表されているとはいえない価格を希望小売価格として称して比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあります。

(5)競争事業者の販売価格を価格対照価格とする二重価格表示について
消費者が同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
市価を比較対照価格とする二重価格表示については、競争関係にある相当数の事業者の実際の販売価格を正確に調査することなく表示する場合には、不当表示に該当するおそれがあります。

2その他の価格表示上記以外に、将来の販売価格又は他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする二重価格表示、割引率又は割引額の表示、販売価格の安さを強調する表示などにおける不当な価格表示についての景品表示法上の考え方を明らかにしております。
消費者庁ウェブサイトより(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/representation_regulation/double_price/)

期間限定キャンペーンの繰り返し

これは、例えば次のような事例が考えられます。

  • 7月中の申込みで1000円割り引かれるというキャンペーンを、8月以降も継続して行った。
  • 閉店する具体的な予定がないのに、長期間に渡り「閉店セール」と称して販売した。

これらの広告表示は、消費者をして「今購入すれば安く入手できる」と思わせる一方で、実際にはそうではないというものです。取引条件に関する誤認を与えるものであり、有利誤認表示の一種と言えます。特に、顧客獲得フェーズに入ったスタートアップ企業などで生じがちな違反事例です。

とはいえ、同一又は類似のキャンペーンを何回か実施したいというニーズはあると思います。そこで、どの程度の期間を空ければ、同じ期間限定キャンペーンを繰り返し行った、と言えるかが問題になります。

ところで、上記のような事例の場合、過去の販売価格を比較対象として、どれほど安いかを強調するのが一般的です。そのため、このケースは二重価格表示の一場面とも言えます。そして、上記で述べたとおり、過去の販売価格を基準とする二重価格表示については、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対象価格とする場合には、不当表示には該当しないとされています。

そして、ここでの「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とは、セール開始時から遡る8週間のうち過半において、当該価格で販売されていた実績がある場合には、比較対象価格として用いることができるとされています(※)。

※ 不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(いわゆる価格表示ガイドライン)7p

https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_35.pdf

以上をまとめると、例えば、「7月1日から7月末日までの申込で1000円割引」というキャンペーンを実施しており、同内容のキャンペーンを再度行いたいという場合には、7月のキャンペーン終了後に定価に戻した上で、再度のキャンペーン開始日から遡る8週間のうち過半の期間において、定価での販売を行っていれば、適法に行うことができるということになります。

ステルスマーケティング

2023年10月から、いわゆるステマ規制が施行されます。もっとも、告示第19号では、以下のようなシンプルな条文があるだけです。これは要するに、事業者が行う表示であるのに、事業者による表示であることを判別することが困難なものを指しており、ステルスマーケティングが念頭に置かれています。

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

より重要なのは、19号告示の運用基準です。https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms216_230328_03.pdf

運用基準の内容は多岐にわたりますが、ポイントは以下の点かと思います。

  • 事業者が表示の内容の決定に関与している場合には、「広告」「PR」などと表示して、広告である旨が分かるようにする必要がある。
  • 事業者が表示内容の決定に関与しているかどうかは、明示的に掲載内容を媒体に指示している場合に限られず、媒体との間の具体的なやり取りの態様や内容(例えば、メール、口頭、送付状等の内容)、媒体の表示に対して提供する対価の内容、その主な提供理由(例えば、宣伝する目的であるかどうか。)、事業者と第三者の関係性の状況(例えば、過去に事業者が第三者の表示に対して対価を提 供していた関係性がある場合に、その関係性がどの程度続いていたのか、今後、第三者の表示に対して対価を提供する関係性がどの程度続くのか。)等の実態も踏まえて総合的に考慮し判断する。

特に、事業者が表示内容の決定に関与しているかどうかの判断は、個々の事案に応じて微妙な判断が求められます。したがって、事業者としては、保守的に「PR」等の表示を行うことも含めて、慎重な判断が求められます。

終わりに

以上、景品表示法上の表示規制を外観しつつ、よくある違反事例をまとめました。なお、表示規制は、一般消費者を保護する規制ですので、toCのビジネスでだけ問題になるものですが、toBのビジネスであっても、独占禁止法で「欺瞞的顧客誘引」という景品表示法の表示規制と類似した規制が存在します。そのため、toBのビジネスでも、景品表示法の表示規制を理解することは、適切な表示を行う上で重要です。

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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