AIソフトウェア受託開発における法務のポイント(条項例あり)

AI
この記事は約4分で読めます。

職業柄、AIソフトウェアの法律相談、契約書レビュー等にしばしば対応しますが、この分野は、経済産業省から「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」1https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001-3.pdfが公表されてから、だいぶ契約実務が固まってきたように思います。
本稿では、AIソフトウェア開発契約における法務のポイントを、条項例も交え解説します。

契約プラクティス

プラクティスについては、前述のガイドラインの公表以降、NDA(秘密保持契約)→PoC契約→開発契約(ライセンス契約)、という流れで進めるのが一般化しているように思います。
通常のシステム開発で多い「基本契約+個別契約」のモデルは少ないようです。

ただ、これもアレンジ次第で、AIソフトウェア開発であっても、後続のフェーズの契約締結を担保したい、開発の不確実性が小さいことが見通せる等の場合には、基本/個別モデルの契約形態を採用することがあってもよいと思います。

学習用データの秘密保持

受託企業であれば、クライアントから学習用データを預かり、これを使って学習させていくと思いますが、クライアントから、厳しい秘密保持義務を要求されることが多いでしょう。

特に、オフショアでベトナム等のエンジニアを使い、アノテーション作業を実施してもらうことも少なくないと思いますが、この場合、第三者提供の例外を特別に定めることが必要になります。

また、アノテーション作業に従事したエンジニアから情報が流出するということもありえないことではないので、そこの情報管理体制も厳しく管理する必要があるでしょう。

学習用データの権利処理

上記のとおり、学習用データはクライアントから提供を受けることが多いと思いますので、受託企業としては、学習用データの権利処理(個人情報、著作権等)はクライアントに行ってもらいたいところです。
しかし、クライアントからすると、膨大なデータの全てについて権利侵害の非保証を謳うのに抵抗があるようで、この点が、契約交渉上の論点になることがあります。

開発対象の権利帰属(特に著作権)

ここは、AIでなくても、システム開発においては常に論点になるところです。AIの場合に特殊なのは、受託企業においても今後の開発に利用したい等のニーズが強い、というところでしょうか。
オンプレではなくクラウドで、開発対象をクライアントに利用させるという形態の場合、事実上も法律上も受託企業のコントロールが効きやすく、受託企業にとっては好ましいので、まずはそのような方法を検討すべきでしょう。

なお、AI契約ガイドラインでは、学習済みモデルの権利帰属について、ベンダ帰属、ユーザ帰属、ベンダ・ユーザの共有、という3パターンが提示されています(共有については、著作権法65条により、相手方の同意がないと譲渡も利用もできないので、あまりお勧めしません。)。
しかし、案件によっては、学習済みモデルのうち、学習済みパラメータと推論プログラムを分属させることも考えられます。分属と言っても、学習済みパラメータについては、基本的には数値等のデータにすぎず著作権の対象にならないと考えられますので、データ契約ガイドラインの考え方に従えば、「現実にアクセスできる者が自由に利用できることを前提に、契約で利用権をコントロールする」というアプローチになります。

このような案を採用し、学習済みプログラムのうち、推論プログラムをユーザ、学習済みパラメータをベンダに帰属させる場合の条項例は以下のようなものが考えられます。

第●条(著作権の帰属等)
1 学習済みモデルのうち、推論プログラムに関する著作権(著作権法第 27 条および第 28 条の権利を含 む。)は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ユーザに帰属する。なお、かかるベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。
2 ベンダは、ユーザ又はユーザから正当に権利を取得または承継し、若しくは利用許諾を受けた第三者による推論プログラムの利用について、著作者人格権を行使しないものとする。
3  学習済みモデルのうち、学習済みパラメータの利用については、ベンダが自由に自己利用し、又は第三者に利用許諾することができる。
4 ベンダは、ユーザに対し、前項の学習済みパラメータを、本件目的(要別途定義)に必要な範囲内で自由に自己利用することを許諾する。ただし、第三者にこれを利用させる場合には、ベンダの承諾を要する。

 

 

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や団体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、適用に関する具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

  • 1
    https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191209001/20191209001-3.pdf
資料請求、講演依頼、法律相談希望、見積依頼その他のお問い合わせはこちら
お問い合わせ
タイトルとURLをコピーしました