破産者情報サイトへの初の停止命令ー公開情報の収集・利用の問題点

個人情報
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個人情報保護法に基づく初の停止命令

2020年7月29日、個人情報保護委員会より、破産者情報サイトを運営する2事業者に対し、個人情報保護法42条2項に基づく停止命令を発したとの公表がなされました。
https://www.ppc.go.jp/files/pdf/200729_meirei.pdf

これは、初の停止命令であると報道されています。
破産者サイトに停止命令 公開データの悪用認めず: 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62059910Z20C20A7EE8000/

クローリングによる個人情報取得の問題点

破産した場合、破産手続開始決定は官報に掲載されます。
そして、知らない方も多いかもしれませんが、官報にはインターネット版があります。
https://kanpou.npb.go.jp

今回問題とされたサイトは、このインターネット版官報で公開されたものを、クローリングで自動的に収集したものと見られます。
そもそも、このようなクローリングによる情報取得は問題にならないのでしょうか。

これについて、個人情報保護法は、「偽りその他不正の手段」により個人情報を取得してはならないとしているのみです(17条)。クローリング自体は広く行われており、「偽りその他不正の手段」とまでは言えないという判断のようです(17条違反は命令の理由とされていないので)。
なお、要配慮個人情報の取得は原則として本人の同意が必要です。

ただし、クローリングには、著作権法上の問題や不法行為該当性の問題もありますので、全く自由にやってよいものではありません。

公開情報の公表の問題点

そもそも、破産法で破産者情報を官報で公開することとしているのは、手続きの開始によって債権回収が制限され、多くの債権者を平等に扱う必要があることから、破産手続の開始を広く知らせる必要があるためです。
ある意味、今回問題とされたサイトは、情報を広めるという点で破産法の目的とベクトルを同じくします。

ではなぜ問題なのでしょうか。
これは意外と盲点になることがありますが、「公表」も広く第三者に情報を提供するものにほかなりませんから、「第三者提供」の一態様です。したがって、原則として本人の同意が必要となります(個人情報保護法23条)。
今回のサイトは、この第三者提供の同意を得ていないと判断されたのです。

例えば、自社サービスの会員に懸賞で商品を提供するに際し、当選者発表を会員IDの公表により行うといった場合には、個人情報の第三者提供に当たり、本人の同意が必要になる場合がありますので注意しましょう。

プライバシーは別問題

個人情報保護法は、プライバシー保護の文脈で語られることが多い法律ですが、同法は公法であるのに対し、プライバシーの問題は私法の問題ですので、個人情報保護法違反の範囲とプライバシー侵害の範囲が常に重なるわけでもありません。

もともと公開情報であったという点は、プライバシー侵害性の有無に大きく関わると思われます。
もっとも、異なる媒体で既に公表されていたとしても、別の媒体でさらに公表することによって、新たなプライバシー侵害が生じるとされることがあり、本件サイトの場合には、破産手続終結後には広く公開しておく意義は薄いこととも相俟って、プライバシー侵害を認めることにさほど支障はないように思います。

 

 

本記事に関する留意事項
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