メッセージング・サービス(機能)の法的留意点

企業法務一般
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「電子メールの時代は終わった」と言われて久しいですが(今でもよく使われていますが)、変わって台頭しているのがLINE等のメッセージング・サービスです。その他、アプリ内でユーザー同士がコミュニケーションできるような、ソーシャル・ネットワーキング機能を持つサービスも昨今ではよく見られます。これらのメッセージング・サービス(機能)を提供するには、特有の法的留意点が存在するため、本稿では、それについて解説します。

1 電気通信事業法

⑴ 総務省への届出の要否

クローズドの1対1のメッセージをやりとりする機能を提供する場合、電気通信事業法上の届出の要否を検討する必要が出てきます。メッセージング・サービスを正面から提供する場合はともかく、アプリ等の機能の一部として、メッセージング機能を提供するような場合、この届出が特に漏れがちです。

要否の判定は、総務省の「電気通信事業参入マニュアル」1https://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdfを参照して行うことになります。

⑵ 通信の秘密保護

電気通信事業法の適用を受ける場合、いくつか気をつけるべき同法上の義務はありますが、最も頻繁に問題になるのは、「検閲の禁止」(電気通信事業法3条)及び「通信の秘密保護」(電気通信事業法4条)の関係でしょう。

(検閲の禁止)
第三条 電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。
(秘密の保護)
第四条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
2 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

例えば、インターネット異性紹介事業を運営するにあたり、ユーザーが犯罪等に巻き込まれないよう、ユーザー間のメッセージを閲覧し、禁止ワードを検知するような場合が考えられます。このような行為を行えるかは、上記の検閲禁止、通信の秘密保護との関係で問題になります。

ところで、前提としてどこまでの情報が「通信の秘密」に該当するのかですが、これについては、通信内容は当然として、通信当事者の住所・氏名、発受信場所及び通信年月日等の通信の構成要素並び通信回数等通信の存在の事実の有無など、通信にまつわる事実を広く含むとされています。そのため、これらの情報を閲覧したり検閲したりする場合には、電気通信事業法の規制が問題になります。

例えば、携帯電話会社等が行っている帯域制御も、個々のユーザーの通信量を監視することになりますから、その点で通信の秘密の侵害に当たる可能性があります(もっとも、帯域制御については、総務省の「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」2https://www.jaipa.or.jp/other/bandwidth/1912_guidelines.pdfによって、適法性がクリアになっています)。

なお、通信の秘密を形式的には侵害してしまう場合は、違法性阻却事由がないかを検討することになります。違法性阻却事由の典型は、正当業務行為や本人の同意ですが、評価的な判断がつきまとうことから、基本的には本人の同意を得る方向で考えるべきです。もっとも、本人の同意を得る場合でも、個別具体的な同意を得る必要があることから、同意取得画面の差し入れ箇所や取得時の文言などは慎重に検討することが必要です。

2 個人情報保護法

メッセージの内容は、一種の個人情報ですから、その取扱いは、個人情報保護法との関係でも注意が必要です。
すなわち、十分な安全管理措置を取る必要があるほか(一般に、安全管理措置は取り扱う情報や企業規模などに応じたものであるべきとされますが、通信の秘密を取り扱う以上は、他の企業に比べて高度な安全管理措置が必要とされる可能性があります)、利用目的明示等が必要になります。

これについては、総務省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」3https://www.soumu.go.jp/main_content/000507466.pdfが存在しており、基本的にはこれに則って対応することになります。

3 プロバイダ責任制限法

メッセージング・サービスを提供していると、発信者情報開示請求を受ける場面も出てきます。
発信者情報開示請求とは、匿名の発信者から誹謗中傷等の権利侵害を受けた被害者が、契約者の氏名・住所等を入手して、訴訟提起等の権利行使ができるようにするための手続です。メッセージング・サービスの運営者自身も、サービス利用者の氏名・住所等を把握していない場合は、権利侵害をする投稿に係るIPアドレスやタイムスタンプの開示を請求されます。被害者は、開示されたIPアドレスを辿って、投稿時に用いられたネットワークの契約者情報などを調査することになります。

何の予備知識もなく、いきなり発信者情報開示請求を受けて困惑する事業者も少なくありませんが、発信者情報開示請求を受けた場合、投稿者に対して開示に応じるか否か等の意見照会を行うことが義務付けられています(プロバイダ責任制限法4条2項)。

請求を受けた場合は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が策定したガイドライン等4http://www.isplaw.jpに沿って、意見照会等の手続を進めることになります。

4 プラットフォーマー責任

メッセージング・サービスにおいては、サービス上での利用者間のやりとりは全て当人同士の問題であり、事業者は関知しないというスタンスをとるのが一般的です。しかしながら、必ずしもそれで法的責任を免れられるわけではありません。

例えば、判例では、CtoCオークションサイトで詐欺にあった被害者が、サービスに問題があったとしてオークション事業者を提訴した事例があります。サイト側は、利用規約で「店舗の行為について責任を負いません」と謳っていましたが、裁判所は、オークションサイトがユーザーに対して「欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務を負っている」としました。したがって、例えば、サービス内で誹謗中傷等が横行しているのにこれを放置し、注意喚起その他サイトとしての対策を全く取っていない場合には、いかに利用規約で免責を規定していても、責任を負う場合があるのです。
このように、利用規約の側面だけでなく、その運用の面でも、常にリーガルの観点からリスクヘッジしておく必要があります。

 

 

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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    https://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdf
  • 2
    https://www.jaipa.or.jp/other/bandwidth/1912_guidelines.pdf
  • 3
    https://www.soumu.go.jp/main_content/000507466.pdf
  • 4
    http://www.isplaw.jp
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