プラットフォーム・ビジネスの法的留意点

企業法務一般
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「プラットフォーマーを目指す」というのは、どのベンチャーも一度は考えることです。確かに、プラットフォーマーになれれば、ストック型収益を上げやすいですし、サービス利用のルールも自分の思う通りに設定できます。しかし、最近ではプラットフォーマー規制なども議論されており、そう良い事ばかりではありません。本稿では、プラットフォームビジネスにおける法的留意点を解説します。

1.横断的なプラットフォーム規制

GAFAのようなデジタル・プラットフォームは、利用者による市場アクセスを飛躍的に向上させ、重要な役割を果たしています。他方、一部の市場では規約の変更や取引拒絶の理由が示されないなど、取引の透明性及び公正性が低いこと等の懸念が指摘されていました。そこで、日本では、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」(令和2年法律第38号。以下「取引透明化法」といいます。)が、2020年5月に成立し、2021年2月1日に施行されました。取引透明化法においては、特に取引の透明性・公正性を高める必要性の高いデジタルプラットフォームを提供する事業者を「特定デジタルプラットフォーム提供者」として指定し、規律の対象とすることとされています。

そして、2021年4月1日に、「特定デジタルプラットフォーム提供者」として、以下の5事業者が指定されました1https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210401003/20210401003.html

  • Amazon
  • 楽天
  • ヤフー
  • Apple
  • Google

これにより、例えば、楽天市場/Amazon/ヤフーショッピングなどに出店している事業者や、AppStore、GooglePayストアなどでアプリを出しているデベロッパーは、以下のような支援を受けられるようになりました。

  • デジタルプラットフォーム提供者への質問・相談方法に関するアドバイス(過去事案も踏まえた対応)
  • 弁護士の情報提供・費用補助
  • 利用事業者向け説明会・法律相談会の実施
  • デジタルプラットフォーム提供者との相互理解の促進支援
  • 複数の相談者に共通する課題を抽出し、解決に向けて検討 等

「特定デジタルプラットフォーム提供者」に指定されると、取引透明化法の規定により、取引条件等の情報の開示及び自主的な手続・体制の整備を行い、実施した措置や事業の概要について、毎年度、自己評価を付した報告書を提出することが義務付けられます。

今はまだ上記5社だけですが、今後、指定対象は増えていく可能性があります。

2.独占禁止法による規制

⑴ 優越的地位の濫用

優越的地位の濫用とは,自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が,取引の相手方に対し,その地位を利用して,正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のことです。
プラットフォーマーは、その性質上、優越的地位を認定されやすい立場にあります。すなわち、ここでいう優越的地位というのは、「市場支配的な地位又はそれに準ずる絶対的に優越した地位である必要はなく、取引の相手方との関係で相対的に優越した地位であれば足りる」と解されていますから、AppleやGoolgeなどの超大企業でなくても、問題になるのです。例えば、甲が取引先である乙に対して優越した地位にあるとは、乙にとって甲との取引の継続が困 難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合であるとされています。

例えば、プラットフォーマーが、優越的地位を利用して、プラットフォーム利用者に対し、以下のような行為を行うと、独占禁止法上問題となる可能性があります2https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/itakutorihiki.html

  • 代金の減額要請
  • 著しく低い対価での取引要請
  • やり直しの要請
  • 協賛金等の負担の要請
  • 商品等の購入要請
  • 情報成果物にかかる権利等の一方的取扱い

一例を挙げれば、写真共有プラットフォームにおいて、アップロードされた写真の著作権をプラットフォーム提供者に移転させるような規約としてしまうと、抵触する可能性が出てきます(このような規定は後述する定型約款規制の関係でも問題になります)。

なお、優越的地位の濫用と認定された場合は、行政処分や課徴金の対象となります。
課徴金は、違反行為がなされていた期間中における、違反行為の相手方との取引額の1%で算定されますので、違反行為が長期に渡るような場合には多額となる可能性があります(但し最大で3年分)。

また、公正取引委員会は、2020年12月17日に「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」3https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/dpfgl.htmlを公表し、消費者からの個人情報取得についても、優越的地位の濫用に当たる場合があるとして、独占禁止法を適用する姿勢を明らかにしています。

例えば、以下のような事例は独占禁止法上問題になり得るとされています。

  • 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること
  • 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を取得すること
  • 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を取得すること
  • 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対して,消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に、個人情報等その他の経済上の利益を提供させること
  • 利用目的の達成に必要な範囲を超えて、消費者の意に反して個人情報を利用すること
  • 個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに、個人情報を利用すること

⑵ 不公正な取引方法(一般指定)

不公正な取引方法とは、独占禁止法や一般指定で指定された、特定の行為です。プラットフォームビジネスとの関係でよく問題になるものとしては、以下のようなものがあります。

  • 取引拒絶
  • 欺瞞的顧客誘引
  • 排他条件付取引
  • 拘束条件付取引
  • 競争者に対する取引妨害

例えば、Amazonは、Amazonマーケットプレイスの出品者との間の出品関連契約において価格等の同等性条件(※)等を定めることにより、出品者の事業活動を制限している疑いを受け、公正取引委員会の調査を受けています(最終的に、Amazon側が疑いを解消する措置をとり調査は終了)。

※ 出品者がAmazonマーケットプレイスに出品する商品の販売価格及び販売条件について、購入者にとって、当該出品者が他の販売経路で販売する同一商品の販売価格及び販売条件のうち最も有利なものと同等とする、又は当該販売価格及び販売条件より有利なものとする条件。

3.定型約款規制

2020年4月1日施行の改正民法では、「定型約款」に対する規制が導入されました。「定型約款」とは、「定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう」(民法548条の2第1項)とされており、プラットフォームビジネスにおいて用いる利用規約などは、その多くが「定型約款」に該当するでしょう。

定型約款に該当すると、相手方の利益を一方的に害すると認められるものは合意しなかったものとみなされるほか、約款の変更の際、不合理な不利益変更は認められず、変更の効力発生時期までに変更内容を周知しなければならない等の規制が掛かってきます。

4.いわゆる「プラットフォーマー責任」

マッチング型のプラットフォームにおいては、当該プラットフォーム上での利用者間のやりとりは全て当人同士の問題であり、プラットフォームは関知しないというスタンスをとるのが一般的です。しかしながら、必ずしもそれで法的責任を免れられるわけではありません。

例えば、判例では、CtoCオークションサイトで詐欺にあった被害者が、サービスに問題があったとしてオークション事業者を提訴した事例があります。サイト側は、利用規約で「店舗の行為について責任を負いません」と謳っていましたが、裁判所は、オークションサイトがユーザーに対して「欠陥のないシステムを構築してサービスを提供すべき義務を負っている」としました。したがって、例えば、サイト内で詐欺が横行しているのにこれを放置し、注意喚起その他サイトとしての対策を全く取っていない場合には、いかに利用規約で免責を規定していても、責任を負う場合があるのです。
このように、利用規約の側面だけでなく、その運用の面でも、常にリーガルの観点からリスクヘッジしておく必要があります。

 

 

本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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    https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210401003/20210401003.html
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    https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/itakutorihiki.html
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    https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/dpfgl.html
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