グレーゾーン・ビジネスへのアプローチ手法(サンドボックス制度)

企業法務一般
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(本記事は、過去に当職が執筆した記事を改変して掲載するものです)
完全にホワイトにすることが難しい、グレーゾーンを攻めたビジネスを検討する際は、行政庁に照会して進めるのが一番です。今回は、各種の照会制度のうち、いわゆるサンドボックス制度について、活用例とともにご紹介します。

はじめに

 2020年10月28日、glafit株式会社(以下「glafit社」)は、プレスリリースにおいて、同社の販売する原動機付自転車と自転車のハイブリッドバイクである「glafitバイク」が、サンドボックス制度を活用した結果、一定の措置を講じれば道路交通法上、普通自転車として取り扱われることとなったと発表しました(※)。
 ※ 「【プレスリリース】日本初!自転車と電動バイクの切り替えが認められる サンドボックス制度を活用し、glafitバイクが名実共に「自転車×電動バイク」のハイブリッドバイクに」1https://glafit.com/news/pr20201028/(glafit社)
 サンドボックス制度は、新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向け、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しに繋げていく制度です。同制度は、イノベーションを促進し、国際競争力を強化することを意図しています。
 2018年6月に同制度が開始されて以降、本稿執筆時点で20件のプロジェクト等が認定を受けており(※)、比較的積極的な制度運用がなされているように見受けられます。
 ※「規制のサンドボックス制度」2https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html(内閣府)
 本制度は、新たなビジネスモデルに挑戦しようとするベンチャー企業等にとって活用の余地があるため、本稿では、その概要を紹介しつつ、モデルケースとして、glafit社のケースがどのように進捗したのかを見ていくこととします。

サンドボックス制度の概要

サンドボックス制度の対象

 上記のとおり、サンドボックス制度は、新しい技術やビジネスモデルを推進し国際競争力を強化するという政策的な目的によるものであるため、本制度の対象となるのは、「革新的事業活動」(我が国において国際競争力を早急に強化すべき事業分野に属する事業活動であって、当該事業分野において革新的な技術又は手法を用いて行うもの。生産性向上特別措置法2条1項)に限られます。
 また、「革新的な技術又は手法」については、「革新的事業活動において用いようとする技術又は手法であって、当該革新的事業活動の属する事業分野において著しい新規性を有するとともに、当該革新的事業活動で用いられることにより、高い付加価値を創出する可能性があるものをいう。」とされています(生産性向上特別措置法2条2項1号)。

サンドボックス制度利用の流れ

 次に、サンドボックス制度の利用の流れは以下の通りです。
 「革新的事業活動」「革新的な技術又は手法」と言えるかは、革新的事業活動評価委員会の判断によるところが大きいようです。
 ①事業者において、内閣府・内閣官房に設置された窓口への事前相談
 ②事業者において、実証に関する計画書を含む申請書を
  主務大臣(事業所管大臣、規制所管大臣)に提出
 ③主務大臣において、革新的事業活動評価委員会に見解を送付
 ④革新的事業活動評価委員会における検討・意見申述
 ⑤主務大臣において、計画の認定、公表(又は認定しない旨の通知)
  ※申請から認定までは約1〜2ヶ月程度とされています。
 ⑥事業者において、実証実施(主務大臣への定期報告が必要)
  ※実証期間は、実証内容に照らして適切な期間を設定できるとされています。
 ⑦事業者において、実証終了時に主務大臣に終了報告
 ⑧主務大臣において、全国的な規制の見直しを検討
※新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)について」3https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/underlyinglaw/sandboximage.pdf(内閣府・新技術等社会実装推進チーム)

glafit社のケース

 glafitバイクは、自転車と原動機付自転車のハイブリッドで使用できる次世代型モビリティとして注目され、2017年8月には、クラウドファンディングサイト「Makuake」において128,004,810円という多額の調達に成功していました(私も注目していました)。しかし、自転車としての使用時においても、道路交通法上は原動機付自転車に当たると解釈されていることから、公道を走る場合には、通行できるのは車道のみ等の欠点がありました。当該解釈は、2005年の警察庁の行政解釈(※)が根拠となります。
※「『ペダル付きの原動機付自転車』の取扱いについて」4https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku44/pedal.pdf(警察庁交通局)
 このような状況において同社は、サンドボックス制度の活用により、バイクの電源をオフにし、ナンバープレートを覆ったときは、道路交通法上、普通自転車として取り扱うという警察庁の解釈変更を引き出すことに成功したと言えます。
 なお、実証実験では、和歌山市内において、107名の参加者に、glafitバイクを自転車モードにして車道を走行してもらい、アンケートにより利用者のニーズや意見の収集等を行ったとのことです。その結果、車道走行時に危険を感じたという意見や、規制緩和すべきという意見がなされたそうで、これらが今回の解釈変更に繋がったものと考えられます(※)。
※「革新的事業活動評価委員会報告資料」5https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/committee/dai17/siryou3-1.pdf(glafit社)
 なお、公表されている情報から読み取れる限り、時系列としては以下のような流れのようです。事前相談に相応の時間がかかっているとは思われるものの、行政庁の方も比較的スピーディーに対応している印象です。
2019年10月3日  glafit社が認定を申請
2019年10月17日   経済産業大臣(事業所管)、国家公安委員会(規制所管)、
        国土交通大臣(規制所管)により認定・公表
2019年11月〜2020年1月   実証実施(3ヶ月間)
2020年10月8日    glafit社が革新的事業活動評価委員会に報告資料を提出
2020年10月28日  glafit社において、バイクの電源をオフにし、ナンバープレートを
                                覆ったときは、普通自転車扱いとされることになった旨を公表
2021年初夏(予定)   警察庁において各都道府県警に対し通達を発出。
                                       その後、glafit社は改良を加えた製品の販売を開始

最後に

 glafit社のケースのように、古い行政解釈が新規ビジネスの障害になっているという事例は珍しくないものと思います。サンドボックス制度以外にも、ノーアクションレター制度やグレーゾーン解消制度など、グレーゾーンを解消する方法はいくつか存在します。これらの制度についても、いずれ記事にしたいと思います。
本記事に関する留意事項
本記事は掲載日現在の法令、判例、実務等を前提に、一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、個別の事案に対応するものではありません。個別の事案に適用するためには、本記事の記載のみに依拠して意思決定されることなく、具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。
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    https://glafit.com/news/pr20201028/
  • 2
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/regulatorysandbox.html
  • 3
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/underlyinglaw/sandboximage.pdf
  • 4
    https://www.npa.go.jp/koutsuu/kikaku44/pedal.pdf
  • 5
    https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/committee/dai17/siryou3-1.pdf
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