AI導入・AI開発契約で見落としやすいガバナンス設計の実務ポイント

AIの制御ゲートを中心にデータが流れる抽象的なネットワーク構造のイラスト AI
この記事は約4分で読めます。

社内の問い合わせ対応にAIチャットボットを導入する、外部ベンダーに生成AI機能の開発を委託する、自社サービスに生成AIを組み込む——こうした場面が増えるにつれて、既存の業務委託契約やライセンス契約のひな形だけでは対応しきれない論点が出てきます。学習データの扱い、生成物の権利帰属、誤り・ハルシネーションが起きたときの責任分担といった点は、通常のシステム開発委託契約やSaaS利用規約には想定されていないことが多く、後から揉めやすい部分です。

問題になりやすいのは、契約締結時点で「AIを使う」ことだけが合意され、AIが何を学習し、何を出力し、その結果に誰が責任を持つのかが曖昧なまま進んでしまうケースです。ここでは、AI導入・AI開発の契約書を作成・レビューする際に確認しておきたい実務上のポイントを整理します。

学習データの利用範囲を契約書に落とし込む

AI開発を外部に委託する場合、自社が提供したデータをどこまでAIの学習に使ってよいかは、契約書で明確にしておく必要があります。ベンダー標準のひな形では、提供データを自社サービス全体のモデル改善に利用できる旨の条項が入っていることがあり、そのまま合意すると、自社の非公開情報や顧客データが他社向けのモデル改善に流用されるおそれがあります。

実務では、少なくとも次の点を確認しておくとよいでしょう。

  • 提供データを自社専用モデルの学習にのみ使うのか、ベンダーの汎用モデルの改善にも使うのか
  • 個人情報・機密情報が含まれる場合の匿名化・マスキングの要否と実施主体
  • 契約終了後にベンダー側でデータ・学習済みモデルをどう扱うか(削除・返還の範囲)

生成物の知的財産権が誰に帰属するか

AIが生成したコード、文章、画像などの成果物について、著作権や利用権がどちらに帰属するかも曖昧になりがちな論点です。委託開発の成果物であれば、通常の受託開発契約と同様に権利帰属条項を置くこと自体は難しくありませんが、AIが既存の学習済みモデルを使って生成した部分については、モデル提供者側の利用規約で権利や利用範囲が別途制限されていることがあります。

そのため、契約書上の権利帰属条項だけでなく、実際に使用するAIサービスの利用規約を突き合わせ、次の点を確認しておく必要があります。

  • 生成物を自社のサービスとして商用利用してよいか(モデル提供者の利用規約上の制限)
  • 生成物に第三者の著作物と類似する内容が含まれていた場合の責任分担
  • 生成物の権利をベンダーから自社に移転する条項が、AI生成部分にも及ぶ文言になっているか

実務では、権利帰属条項を「成果物の著作権はすべて委託者に帰属する」という一文だけで済ませてしまう例が少なくありません。しかし、ベンダーが第三者の学習済みモデルをAPI経由で利用している場合、そのモデル自体の知的財産権はモデル提供者に残り続けます。委託開発契約の権利帰属条項が及ぶのは、あくまでベンダーが新たに作成した部分であって、モデル提供者の権利にまでは及ばない点を、発注段階で確認しておく必要があります。

AIの誤り・ハルシネーションへの責任分担

生成AIは、事実と異なる内容をもっともらしく出力すること(いわゆるハルシネーション)が構造的に避けられません。社内向けの業務効率化ツールであれば影響は限定的ですが、顧客向けのチャットボットや自動応答に組み込む場合、誤った回答が顧客に損害を与える可能性があり、責任の所在を契約書で整理しておく必要があります。

チェックポイントとしては、次の3点が挙げられます。

  • AIの出力を最終的にどの段階で人が確認するか(人的レビューの有無・範囲)
  • AIベンダーの契約上の責任制限条項が、自社が想定する被害規模に見合っているか
  • 自社と顧客との間の利用規約でも、AI回答の正確性を保証しない旨を明記しているか

社内ガバナンス整備を契約実務と切り離さない

契約書の整備だけでは、社内でのAI利用リスクは管理しきれません。経済産業省・総務省が公表している「AI事業者ガイドライン」でも、AI提供者・開発者・利用者それぞれの立場に応じた留意事項が整理されており、自社がどの立場に当たるかによって確認すべき事項が変わってきます。あらかじめ社内のAI利用ガイドラインを整備し、どの業務にどのAIサービスを使ってよいか、機密情報や個人情報を入力してよい範囲はどこまでかを明確にしておくことが望まれます。

特に、現場の担当者が個別に無料版の生成AIツールを業務に使い始めているケースでは、契約審査を経ずに機密情報が外部サービスに入力されてしまう事態が起こりやすく、契約書の整備と並行して、利用ルールの周知・承認フローの設計を進めておく必要があります。

まとめ

AI導入・AI開発の契約では、学習データの利用範囲、生成物の権利帰属、誤りが生じた場合の責任分担という3つの論点が抜け落ちやすいポイントです。標準的な業務委託契約のひな形をそのまま流用するのではなく、これらの点を個別に確認し、必要な条項を追加しておくことが、後々のトラブルを防ぐことにつながります。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の法律問題についての法的助言を構成するものではありません。個別の事案については、弁護士にご相談ください。

資料請求、講演依頼、法律相談希望、見積依頼その他のお問い合わせはこちら
お問い合わせ
タイトルとURLをコピーしました